司法書士会員の皆様へ 総会開催にあたっての挨拶
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本日ここに貴司法書土会の平成21年度定時総会が開催されますこと、心よりお喜び
申し上げます。
さて、昨年夏以降に発生した米国のサブプライムローンに起因する世界的規模での金
融破綻による経済不況は、わが国の産業と雇用にも甚大な影響を与え、国民生活に大き
な不安を与えており、私たち司法書士の主要業務である不動産登記事務においても、企
融取引と不動産取引の縮小と低迷により、登記事件数は大幅に減少しており、厳しい事
務所経営環境にあるのが現状であります。
それと同時に、司法制度改革による法曹人口の急増問題は、都会における弁護士の登
記事件参入として現実化してきており、また、司法書士資格制度自体にも大きな影響を
及ぼし始めております。
弁護士人口は、現在2万7、000名余りとなり、その半数は、東京3会の弁護士会
に所属し、大阪などの大都市の弁護士も相当数にのぼるため、弁護士が増員しても都市
集中に拍車がかかり、司法改革の大きな日的であった司法過疎の解消には必ずしも役立
っておりません。また、急増による弁護士の質の問題が指摘されはじめ、自民党内に強
力な見麻し議連も組織され、また、日弁連からも弁護士人口増加に歯止めをかける公式
の意見書が出されております。
これに関違して、新司法試験不合格者の処遇として、隣接法律専門職の資格を付与す
べきとか、試験科目免除の論議も再燃しつつありますが、連合会は、これらの考えには
断固とした反対意見を主張しております。法曹人口問題は、隣接法律専門職の担ってき
た役割を正当に評価し、その専門性と役割分担を尊重すれば、自ずと必要とされる弁護
士人口数が決まるものと考えております。
このような状況の中で、日本司法支援センターや市町村での法律相談の規制、ADR
における助言措置や裁判外和解代理業務における140万円問題などは、弁護士業界に
よる国民の司法アクセスの障害要因ともなっており、司法書士の法律相談権の樹立を図
ることは喫緊の課題となっています。
法律相談は、現に生じている紛争解決を求める相談だけではなく、紛争予防・紛争回
避のための相談の方が多くあり、司法害士業務に関する一般法律相談権の実現は決して
職城争いではなく、国民の司法アクセスの利便性と権利保護の実現を支援するために必
要なことであると確信しております。
連合会は、法務省をはじめ関係機関等の理解を得る努力を行い、司法書士法改正の最
重要課題として、法律相談権を確立するための法改正に向けた具体的な運動を展開して
いく所存であります。
さて、連合会が平成20年度に取り組みました重要課題のうち、まず第一点は、規制
改革会議において検討課題とされてきた、行政書士への商業法人登記の開放問題の阻止
であります。連合会は、法律関連士業の業際問題は規制改革論謳の場で議論すべき問題
ではなく、司法制度改革の場において国民への法的サービスのための法律専門職全体の
法律事務の分担分掌の在り方をどうするかを議論すべき事柄であり、規制改革という名
のもとに士業の専門性を侵害する開放論議は資格制度の否定につながり、各士業の専門
性を尊重すべきであると強く主張し働きかけを行って参りました。その結果、司法書士
制度推進議員連盟の先生方のご理解とご支援もあって、第3次答申からは項目ごと全文
削除となり、規制改革会議の検討課題からはずれることになりました。それを受けた本
年3月31日に閣議決定された規制改革推進3か年計画(再改定)には、商業登記開放問
題についての記載はー切なく、この問題について決着がついたことをまずもって会員の
皆様にご報告いたします。
次に、司法書士ADRの認証取得において140万円を超える民事紛争を取り扱うに
必要な弁護士助言措置の問題については、日弁連の定めたガイドラインを盾に、調停者
の共同実施の原則あるいは家事事件には専門的知見がないとする立場から取扱業務を
狭く限定することを求められていたところですが、連合会は、司法書士ADRの自主性
が損なわれるばかりか、適正なADRの発展を阻害する懸念が生じるとしてそれらの見
解には承服できないと主張しておりましたところ、3月に閣議決定された規制改革推進
3か年計両(再改定)には、連合会の主張に沿った弁護士助言措置の適正な運用を求め
る措置をとるべきことが明記され、それが了承されたところであります。今後は、日弁
連ガイドラインに拘束されない弁護士助言措置型のADR認証について、その具体化を
推進して参ります。
三点目の、不動産登記のオンライン申請の推進につきましては、昨年1年間に102
万件余りの登記事件がオンライン申請され、商業法人登記の23万件と合わせると、1
25万件余りとなりました。これも、連合会ならびに各司法書士会の研修等の取り組み
と、会員の皆様の積極的なご利用もあって、電子政府推進における「登記」オンライン
化にはやはり司法書士の果たす役割が大きいとの認識を新たにするものでした。
今後、登記識別情報の問題やシステムダウンの対処など、オンライン申請にはまだま
だ改善すべき点が多々ありますが、平成23年3月末には稼働予定の法務省民事局の新
オンライン申詰システムの開発には、法務省との協議を緊密に行い、連合会の提言や要
望を受け入れていただき業務に利用しやすいシステムの実現に向けて活勣してまいり
ます。
これにより、司法書士の専門性・優位性を値立する端緒を開くことができますので、
環境整備としてのデータ・センター構想の実現と登記原因の調査確認業務の法改正を視
野に入れて積極的な取祖をする予定です。
最後に内なる課題として重要なのは、懲戒制度の改革と運用改善の問題です。国民の
権利意識の高まりと社会状況の変化もあって、苦情や懲戒申立ての件数が増加していま
す。懲戒処分手続において、司法書士会の関与が必要的ではないことや、非違行為の内
容と処分との妥当性・均一性の問題とか、戒告に対する異議申立手続の不備の問題や除
斥期間がないことなど、懲戒の手続保障が十分とはいえず、さらに、司法書士業務の拡
大・変化により、裁判業務や成年後見業務を所管していない法務局の懲戒権者としての
適格性の懸念など、様々な観点から懲戒制度の抜本的な改革と現状の運用改善が急務で
あります。
そのためには、専門家として求められる倫理、執務姿勢についての自覚を高め、時代
にふさわしい執務の在り方を実除していくことが重要です。本人確認等の会則化は、さ
まざまな時代変化の中で、現代の専門家に求められる執務姿勢に応えるものです。連合
会は、これまでの懲戒例を参考に必要とされている本人確認方法を規程として示しまし
たが、司法書士の職責に照らして適切な方法による裁量的確認の余地も認めております。
不動産登記業務をはじめとする司法書士の専門法律家としての本人確認業務は、一般の
依頼者ばかりでなく、金融機関あるいは不動産業界からも高く評価され、協力的環境が
整ってきております。
登記の真実性確保の観点からもこの執務方法の定着を図る努力を借しむべきではあ
りません。是非とも、代書代行型の業務から真の法律家の代理型業務へと司法書士制度
を前進し確立するために、会員の皆様のご理解とご協力を賜るようお願い申し上げます。
最後になりましたが、本定時総会の成功とご参加の皆様のご健勝を祈念してご挨拶と
させていただきます。
平成21年5月
日本司法書士会連合会 会長佐藤純通